きのうの正午過ぎ、東京都心の上空をブルーインパルスが飛んだ。航空自衛隊のTwitter(@JASDF_PAO)では「感謝飛行」と銘打って「医療従事者の方々をはじめ、多くの皆様へ敬意と感謝をお届けした」とある。
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これから少しだけ余計なことを言う。ブルーインパルスが飛ぶ予定だと知ったとき、僕は真っ先に「えっそんなことするの...?」という違和感を憶えてしまった。T-4(ブルーインパルスの機体)のフォルムは大好きだし、自衛隊の日頃の活動にも純粋にカッコいいなーと思っているにもかかわらず。
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この輪郭のない大きな疑問符をいろいろといじり回してみると、およそ2つに分けることができた。1つ目は、本当に多くの人がそれを受け入れてくれるのかという懸念。アメリカでは4月28日に海軍と空軍の両チームがアクロバット飛行を披露したが、米軍と自衛隊は似て非なるものだと思っている。
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特に、これは100%主観なのだけれど、アメリカ国民における米軍の存在には確固たるものがあって、そのふるまいに絶対的な信頼が置かれているのに対して、日本では自衛隊を政治とセットでしか考えられない人が多く、現政権が不満だから今回の飛行をよく思わないという人も多くなるのでは?と思った。
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その意味で、この「感謝飛行」を発案したのが誰だったのかはすごく気になる。よく「会議は何を発言するかではなく誰が発言するかで決まる」と言われるけれど、誰が言ったのかによってその意味が180度変わってしまうような場面も実際には多くあるはずだ。
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もう1つは明らかで、「感謝」とか「感動」みたいなものを全面に押し出すことを僕が苦手としているからだ。べつに他者への感謝の心がないという訳ではなく、自分がそんな差し出がましいことをしていいのかという自信のなさが根底にある。誰かに何かをプレゼントするのも同じ原理で長らく苦手だった。
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小中学生の頃、高専ロボコンや大学ロボコン、鳥人間コンテストに熱中していて、いずれは画面の向こうに行けると思っていた。毎年見ているうちに、番組が「感動」に重点を置くようになっていった。「このフライトが終わったらこちらのマネージャーに告白するそうです!」みたいなのもあったような。
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「感動」を求める気持ちも分からんではないから、勝手にやっててくれる分にはまったく構わない。でも、番組の放送時間は決まっているから、人が映る時間が延びれば機械が映る時間が減る。なによりも機械や技術を観たい僕にとってあの風潮はもどかしかった。
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きのうの昼に時間を戻す。いや、きのうの夕方まで時間を戻そう。飛行機やヘリコプターの音が聞こえたとき、その機影を探してずっと見上げているのは僕だけだったということは多いので、Twitter上での盛り上がりを目にしたときの率直な感想は「みんな意外と飛行機好きじゃん!」だった。
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もちろん飛行に対して否定的な意見もあるけれど、それは政治と結び付けてはじめて成り立つものであって、多くの人は見上げた空や投稿された写真の圧倒的な美しさに興奮を憶えたのだと思う。
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当然「今日は天気がいいんでブルーインパルス飛ばします」という訳にはいかないから、「感謝飛行」という意味付けによってこのタイミングでこの飛行が実現したことは僕の厄介な航空オタク精神に照らしても素直に嬉しい出来事だったと気付いた。感謝を押し出したからといってスモークが薄くはならない。
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そして、これはうまく言葉にならないのだけれど、空を見上げるっていう行為はやっぱりすごくいいなぁと思った。何もなくても、たまには空を見上げたほうがいいのかも知れない。